from 福井義高 AngelRabbits LLC
会話や場合によっては記事でさえも、投資(または出資)と融資(または貸付)とが混同されて使われているケースがあります。
どちらも受けた経験がない方には、何らかまとまった資金を受領するという意識しかないかも知れません。
ただ、これから事業を開始しようというときには、大きな違いがあります。
融資とは
融資を受ける、即ち借り入れを行う場合、どんなに事業が大成功しても、借り入れた金額の返済と決められた金利以外に支払う必要はありません。
その代り、原因が何であれ事業が失敗したら、返済と金利の支払いを実行する義務があります。
担保を差し入れていた場合は売却し、保証人がいる場合は保証履行を迫られ、両方共ない場合あるいは担保の売却や保証履行によっても返済や金利の支払いなどに届かない場合は、差し押さえ、競売、最終的には破産申立がなされることになります。
※担保:債権者(お金を貸す側)に返済ができなかった場合の保証として、債務者(お金を借りる側)があらかじめ差し出す財産のことです。
投資とは
これに対して投資を受ける場合、どれほど事業が失敗したとしても、買い戻し条項のような契約を結んでいない限り、返済を求められることはありません。
ただし、事業が失敗したときは、経営が左右されたり株主代表訴訟を受けたりすることはあります。
逆に事業が成功した場合、成功によって得られた利益は何らかの形で、投資した側へ還元しなければなりません。
仮に事業が大成功したにも関わらず、何も投資した側へ還元しなかった場合、当然の権利として配当や役員解任や身売りなど経営方針が左右されることになります。
※買い戻し条項:上場を目指していたベンチャー企業が、上場が絶望的となった場合に投資家から株式を買い戻す義務が生じることを記載した条項のことをいいます。
※株主代表訴訟:株主が会社を代表して役員等に対して法的責任追及ためにおこなう訴訟のことをいいます。
※配当:企業が事業活動で得られた利益の一部を株主に対して分配することをいいます。
投資への誤解
融資については、住宅ローンや自動車ローンなどで体験されている方も多いため、「借りているものを返す」という感覚が理解されることも多いようです。
一方、投資を受ける場合、「お金をもらう」と漠然と考えている方も少なくありません。
上場株式であれば市場で売買されるため、よけいに分かりにくいのかも知れません。
投資を受けるということは、敢えて単純に言えば、事業を身売りする、ということです。投資する側としては、事業を買うということになります。
だからこそ失敗しても返済を求めようがないし、成功したら分前を要求することになります。
当初設立した創業者が、自分の株式を投資家へ全部売却するというのは身売りとして分かりやすい事例です。
一部売却する場合は、一部身売りすることによって、事業が創業者だけのものではなくなるということです。
既に発行された株式ではなく、新しく株式を発行して、投資家が購入する(引き受ける)増資、という場合はどうでしょう。
増資は、事業が成功した場合に、投資を受けなければ丸々得られる利益の一部を、予め投資家へ売ったということになります。
その代りに、事業が成功するために必要な新しい資金を、予め追加で使うことが可能となります。
「投資を受ける」ときの心得
このように投資を受けるということは、決してお金をもらう、という意味ではありません。文字通り自分の身を切って、誰かに売る、ということを意味します。
すなわち投資を受けることによって、今後の成長に使える資金が増える一方、事業の収益、方向性や選択肢を決定する権限の一部を明け渡すということになります。
だからこそ投資を受ける場合は、どんなに困っていても相手を良く選んだ方が良いということです。
なお、事業会社から投資を受ける場合ではなく、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から投資を受ける場合、投資側の方としても敢えて事業の決定権、すなわち議決権を受けることを望まないケースもあります。
特に技術系で創業間もないケースや、高度な専門的判断が必要とされるような事業に見られます。
このような場合は、議決権を留保した種類株式などが使われることもありますので、ケースバイケースで柔軟な協議に対応できるような投資家を探すことも必要です。
※議決権:株主が持つ権利の一つで、会社の経営方針などに対して決議できる権利のことをいいます。
※種類株式:配当支払いや議決権等について普通株式とは権利内容が異なる株式のことをいいます。